【旅物語#02】ベトナムハノイ 一杯のフォーがとてつもなく暖かかった。

【旅物語#02】ベトナムトリップ

【旅物語#02】ベトナムハノイ 一杯のフォーがとてつもなく暖かかった。

Google Mapを眺めながらハノイの小路を進んでいく。
イワシの魚群たちは4車線を渡りきるぼくを睨みつけてはいたけど、とうとう喰ってかかることなくぼくを向こう岸まで渡り切らせることを許した。
ぼくの勝ちだ!と、心の中で勝利の祝杯をあげたいという気持ちをひた隠し、ぼくは宿へと向かう。

昔の人は地図を頼り歩みを進めたのだろうか。行き先を道ゆく誰かに尋ねていたんだろうか。そんなことを想像すると、昔の方がよっぽど旅を感じる旅だったんだろうな。と思いが巡るが、玉ねぎ剣士のぼくにはデジタルデバイスの存在が血肉の通った相棒のようにも感じている。heySiri。頼むから見捨てないでくれよ。

振り返るとイワシの魚群たちは止まることを知らずに走り続けている。
相棒に言われるがままに小路に入ると、さっきまでの騒音とは世界が遮断されたように、人々の息遣いが聞こえてくるような空間に入り込んだ。

ここはおそらく夜になると人々が集まる繁華街なのだろう。
昼過ぎの町はまだ目覚めたばかりの様子で、夜への支度をそれぞれが始めた頃だった。

町には建造物が並び小路を形造っているが、見たこともないようなジャングルを思わせる木々が、傍若無人に青々した葉をあちこちに広げている。
木々は大きく無骨で、日本の街路樹のように真っ直ぐは伸びていない。幹は右往左往と思い思いに空まで伸びて、町をいまにも覆い尽くさんばかりの様相だ。

ハノイの歴史は知らないけど、かつてはジャングルだったのだ。開拓民の先祖がジャングルを切り開き、町を開いた。だけれど、自然を駆逐するには至らず自然との共生を選んだ。もしくは、ただ面倒なだけだったのかもしれない。そんなことを妄想するだけの余裕が少しずつつぼくにも出てきたのしれない。玉ねぎ剣士、世界を知る。物語は常に進行しているのだ。そのうちSiriに真相を尋ねるとしよう。

この後にハノイの町を広い範囲で知ることになるのだが、どこにでも巨木が生えていて、風景には必ず緑が映り込む。ハノイの町の素敵ポイントの一つだ。

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「この道の角を左に曲がると、レイルウェイがあるよ。」

無機質で行儀のいい相棒のおかげで目的地の宿にたどり着き、一旦は今日のセーブポイントをくぐったことになる。
案内されたドミトリーベットの1段目に腰掛けて、とりあえず安堵の息を吐く。

ぼくは長野のど田舎でゲストハウスを経営しているけれど、ドミトリーで泊まることが好きじゃない。プライバシー云々よりも、人のリズムに合わせて行動することが3歳児の頃から苦手で、そのくせ人の迷惑になることや和を乱すことを嫌う。

過剰に気を遣って音を出さないように、とか、お隣さんが活動し始めるまでじっとしておこう、とか。そんことを考える。そうすると自由を奪われたようで窮屈になってしまう。ぼくにはバックパッカーのような旅は似合わない。それなのに、なんとなく初めてのベトナム旅に「旅感」を求めたが故に、言葉の通じる人などいないゲストハウスの、しかもドミトリーを選択してまうことになってしまったのだ。

それはさておき、せっかくまだ明るいのだから辺りを散策しよう。大きな荷物はベットの鉄足にワイヤーでくくりつけた。身軽にカメラと財布だけもって出掛けるのだ。身軽になると、不安が少し和らいで、好奇心が強くなる。

トモダチハウスという名前のゲストハウスの色白の女性スタッフにマップをもらってあたりのことをきいてみる。レイルウェイという観光スポットになっている場所が近いのだという。この宿で、ぼくはトモダチができるだろうか。「Bye」と言って宿を出る時に、そんなことを考える。ぼくはわかりやすく寂しがり屋さんなのだ。

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ハノイレイルウェイと呼ばれるそのエリアには、名前の通り鉄道の線路が延びていて、その両脇にぎゅうぎゅうと敷き詰められて立ち並ぶ町が形成されている。

線路と砂利が町の真ん中を突っ切って、その上を子供達とニワトリが走り回り、思い思いの「暮らし」が営まれている。洗濯物を洗ったり干す人や、火をつけて炊事をする人、線路に椅子を置いてただその空間に溶け込む人。
その合間合間には、古い家をリノベーションしたカフェや呑み屋が店を開けている。

なんて不思議な光景だろう。
日も暮れ始めて西日の色がその町を包みだす頃、ぼくはその景色に同化して、しばらく町の音を聞いていた。たくさんの営みの音たちがぼくを呑み込んでいく感覚に、浸っている。

ぼくはいま、未知の中にいる。
旅をしてよかった。と、まだ旅の入口でしかないその瞬間に陶酔してしまったのだ。

レイルウェイでのことは、また次の話にでも書こう。
あまりにも長くなりすぎるから。

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日が暮れると、小路の町は賑やかな姿となっていた。
そろそろ初めてのディナータイムの頃合いだろう。ベトナムといえば、、まずはフォーを食べてみたい。宿の色白さんに聞いていた店は、小路とレイルウェイがぶつかる角にあった。

青色のプラスチックのテーブルと椅子が路上に侵食して、軒先と車道の間のバイクが置かれた空間までが「店内」となっている。

どうしたものかと、店を遠巻きから眺めてみる。遠巻きから写真を撮って眺めていたとて、腹は満たされない。旅の中ではどうやら突発的に不安が顔を出すらしい。えいやと、なまくら刀を振りかざす玉ねぎ剣士。勢いに任せて左端のテーブルに腰掛けるのだった。

しばらくキョロキョロしていると隣でフォーをすすっているおじちゃんがお店のおばちゃんに「客来てるぞ。」という感じで声をかけてくれた。おばちゃんは大きな声でぼくになにかを訪ねてくる。近づいてみると生っぽい肉と火の通った肉の大皿を指差して「どっち??」と尋ねているようだ。

いや、、どう見ても、左側生肉やん?!!と思いつつ、いやそれでもきっと美味しいフォーなんだろう。そう言い聞かせて、左側を指差した。最悪、お腹痛くなるくらいだよね、、?

テーブルに戻り一息ついてあたりを見渡すと、自分の後ろにの車道にはバイクや車がけたたましくクラクションを鳴らし続けている。目の前の宿に続く小路は薄暗い光が続き、同じように道に店を広げた空間では人々が呑み食いをしていて、右側のレイルウェイには観光客が思い思いに写真を撮ったりしている。

喧騒の中、有象無象が交配された空気を吸い込んだ。異国の地で一人、光が反射するその向こうの夜空を見上げる。なんだか、、エモい!!旅はやたらとぼくを物語の主人公にしたがるのだ。勘違いしてはいけないよ。ただぼくは、フォーを食べようとしているだけなのだから。

たくさんの言葉たちが脳内を駆け巡る、そんな間に、湯気を立てたベトナムで初めての食事が運ばれてくる。さっきまでの言葉なんぞ知ったことではない。
そそくさとその瞬間を写真に収め、嬉々として箸を手に取ったのだった。

2018年12月ベトナム首都 ハノイより

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